2024/11/23 11:00
アロマテラピーに欠かせない精油。
精油は植物が作り出す香り成分を抽出したものです。
では、植物はなぜ種類によって異なる香りがするのでしょうか。
また植物は何のために香り成分を作り出すのでしょうか?
今回は精油の正体と植物との関係についてです。
○植物はどうやって香り成分を作る?
植物は光合成を行い、太陽のエネルギーを用いて二酸化炭素と水から糖(グルコース)をつくり出すというのは、ご存知の方が多いはず。
これは植物共通もので、一次代謝といいます。
この一次代謝の過程で生まれたものを材料に、植物が固有につくり出す成分を二次代謝産物といいます。
香り成分もこのニ次代謝産物です。
つまり精油は植物が作り出した二次代謝産物で、天然の化学物質である有機化合物が数十から数百種集まってできたものなんです。
植物の香り成分は、植物全体に均一に含まれているわけではなく、特殊な細胞でつくられて分泌組織に蓄えられており、その組織は植物の種類によって異なります。
たとえば、バラは花弁の付け根にある蜜腺という組織から、蜜液とともに香り成分が放出されます。
ペパーミントやラベンダーなどのシソ科の植物は、茎葉の表面に生えている先端が球状になった毛(腺毛)の中に香り成分があり、葉をこするなどして腺毛が壊れることで香りが出ます。
コリアンダーやフェンネルなどのセリ科の植物は、全草に張りめぐらされた油管という管の中に香り成分があり、葉をちぎったりして油管を壊すことで香りが出ます。
サンショウやユズのようなミカン科の植物は、茎葉や花、果皮の中にある油室という組織に香り成分があり、サンショウの葉を叩いたり、ユズの果皮を傷つけたりして油室を壊すことで香りが放出されます。
○植物にとっての香りの意味
植物が香り成分を作るのは、もちろん自身が生きていくうえで必要だからです。
香りは、動くことも話すこともできない植物が生き残るためにつくり出した知恵なのです。
植物は、自分の生育環境に応じた香りをつくっています。
近年のさまざまな研究によると、植物の香りには主に以下のような働きがあると考えられています。
1.虫を引き寄せる誘引効果
これは受粉や、種子を遠くに運んでもらうことに役立ちます。
その代表例がミツバチです。
一方、キャベツなどのアブラナ科の植物のように、モンシロチョウやコナガといった害虫を誘引してしまう例もあります。これらの植物の多くは春に開花・結実したあとは枯れるだけです。
そのため、もしかしたら受粉を兼ねて誘引し、そのあとモンシロチョウやコナガに自身の葉で子育てをしてもらいながら、葉を食べた虫たちの排泄物によって豊かな土づくりをしてもらっているのかもしれません。
なかには、害虫を捕食してもらうために天敵を誘引する植物もあり、生物同士の複雑なつながりがみられます。
2.虫から身を守る防虫・忌避効果
植物には、レモングラスやレモンバームなどレモンのような香りのするものがあります。
これらの香りはシトラールやシトロネラールなどによるもので、防虫・忌避効果があります。
3.カビや細菌などの病原菌から身を守る防カビ・抗菌効果
特に森林の香りにはこの効果が高いことが知られており、「フィトンチッド」とも呼ばれています。
この言葉はロシア語の「フィトン」(植物)と「チッド」(殺す)という2つの単語を合わせた造語です。
木の香りがさまざまな菌類の活性を抑制させたという研究結果もあります。
4.ほかの植物の生育を阻害する効果
ほかの植物との生存競争に勝つために、ほかの種子の発芽を抑えたり生育を阻害したりする効果もあります。
このような植物間の相互作用をアレロパシーといいます。
アレロパシーにはほかの植物の生育を阻害するだけでなく、自分自身が生育できなくなる物質を根から出し、その影響のないほうへ生育地を拡大し、ドーナツ状にだんだん広がるものも知られています。
このように、植物はそれぞれの生存戦略として、香りを通してほかの生物とやりとりをしています。
○精油とアロマテラピー
このように植物の生命力が生み出す香り成分を抽出したものが精油であり、これらの香り成分を人間が取り入れて香りを楽しんだり、生活を豊かにしたり、健康に役立てたりするのがアロマテラピーです。
植物の香りは心地よく、心や身体に働きかける力があります。
精油を購入したり、利用する際には、植物や自然に感謝することを忘れてはいけませんね。